歯科医院は医師免許を持つ専門職として安定しているイメージがあるものの、実際には経営難に苦しむケースが増えています。
患者数の減少、保険診療の低収益性、過当競争など、様々な要因が考えられます。
全国に約7万件もの歯医者があり、コンビニエンスストアよりも多いと言われる過剰供給の状態です。
このような中で上手くいかない原因を理解し、適切な対策を講じることで、状況を改善することは可能です。
この記事では歯科医院が経営難に陥る5つの主な原因から経営難に陥りやすい医院の特徴、そして経営を立て直す具体的な方法まで詳しく解説します。
歯科医院が経営難に陥る5つの主な原因は?
歯科医院の経営難は、患者数の減少、保険診療依存、過剰な借入負担、人件費の高騰、後継者不足という5つの主な原因によって引き起こされます。
これらの原因が複合的に重なることで、経営が悪化し、資金繰りに苦しむ状況に陥ります。 多くの歯科医院は、一つだけでなく複数の問題を抱えています。
患者数の減少
最も深刻な原因が、患者数の慢性的な減少です。
歯科医院の数は約7万件で、人口減少が進む中、一医院あたりの患者数は減少傾向にあります。 特に地方では、人口減少と高齢化が顕著で、若年層の患者が減っています。
また、予防歯科の普及により、虫歯の患者数自体が減少しています。 フッ素入り歯磨き粉の普及、学校での歯科検診の充実などにより、子供の虫歯は大幅に減りました。 虫歯治療という従来の主要な収入源が減少しているのです。
新規患者が来ない、既存患者が離れていくという状況では、売上は下がる一方です。 1日の来院患者数が20人から10人に半減すれば、売上も半減します。 固定費は変わらないため、利益は大きく減少し、赤字に転落することもあります。
競合の増加も患者減少の一因です。 近隣に新しい歯科医院がオープンすれば、既存患者が流れることがあります。 特に、夜間診療や最新設備を売りにする新規医院には、患者を奪われやすいです。
保険診療依存による低収益性
保険診療に依存した経営体質も、経営難の大きな原因です。
保険診療の診療報酬は国が定めており、自由に価格設定できません。 また、診療報酬は年々引き下げられる傾向にあり、同じ治療をしても収入は減少しています。
保険診療だけに依存していると、患者数を増やすしか収入を増やす方法がありません。 しかし、1日に診察できる患者数には限界があり、院長の労働時間にも限りがあります。
保険診療の平均単価は5,000円程度です。 1日20人診察しても、日商は10万円、月商は200万円程度(週5日営業として)です。 ここから家賃、人件費、材料費などを差し引くと、利益はわずかです。
一方、自費診療(インプラント、審美歯科、矯正など)は高単価ですが、患者を獲得するのが難しいです。 保険診療で来院した患者に、自費診療を提案しても、価格が高いため敬遠されることが多いです。
自費診療の比率が低い医院は、薄利多売の経営となり、利益率が低くなります。
過剰な借入負担
開業時の過剰な借入が、経営を圧迫するケースも多いです。
歯科医院の開業には、5,000万円から1億円以上の資金が必要です。 設備投資、内装工事、医療機器の購入などで、高額な初期投資がかかります。
この資金を借入で賄った場合、毎月の返済額が経営を圧迫します。 例えば、5,000万円を20年で返済する場合、金利を含めて毎月25〜30万円程度の返済が必要です。
患者数が想定より少なく、売上が上がらない状況でも、返済は待ってくれません。 資金繰りに苦しみ、返済が滞ると、金融機関から督促を受けます。
また、開業時に最新の高額機器を導入しすぎて、過剰投資になることもあります。 CTやCAD/CAMシステムなど、1,000万円を超える機器を複数導入すると、借入額が膨らみます。 使用頻度が低ければ、投資回収できません。
リース契約も、実質的には借入と同じです。 毎月のリース料が固定費として経営を圧迫します。
人件費の高騰
スタッフの人件費が経営を圧迫することもあります。
歯科衛生士や歯科助手の採用難により、給与水準が上昇しています。 人材確保のために高い給与を提示せざるを得ず、人件費率が上がります。
また、スタッフの定着率が低いと、常に求人コストがかかります。 採用広告費、紹介手数料、新人教育の時間とコストなど、離職のたびに発生します。
人件費率が売上の50%を超えると、経営は厳しくなります。 理想的な人件費率は40%以下ですが、それを維持できている医院は多くありません。
また、院長の給与を適切に設定していないことも問題です。 「利益が出たら自分の給与にする」という考えでは、生活が安定しません。 院長も一人の従業員として、適切な給与を設定すべきです。
後継者不足と高齢化
院長の高齢化と後継者不足も、経営難の一因です。
現在、歯科医師の平均年齢は50歳を超えており、高齢化が進んでいます。 60代、70代で現役を続ける院長も多いですが、体力的な限界から診療時間や診療日数を減らさざるを得ません。
診療日数が減れば、売上も減ります。 週6日から週4日に減らせば、売上は約30%減少します。 固定費は変わらないため、利益は大きく減少します。
後継者がいない場合、廃業を考えざるを得ません。 しかし、借入金が残っていれば、廃業もできません。 設備を売却しても、借入金を完済できないことが多く、個人資産を投じる必要があります。
事業承継を希望しても、条件が合わずに成立しないこともあります。 若手歯科医師は、自分で開業したいと考える人が多く、他人の医院を継ぐことに消極的です。
歯科医院が経営難に陥る主な原因は、患者数の減少、保険診療依存、過剰な借入負担、人件費の高騰、後継者不足という5つです。
それでは、どのような歯科医院が経営難に陥りやすいのか、その特徴を見ていきましょう。
経営難に陥りやすい歯科医院の特徴
経営難に陥りやすい医院には、マーケティングをしていない、自費診療が少ない、固定費が高い、経営数値を把握していないという共通した特徴があります。
これらの特徴が複数当てはまる場合、経営難のリスクは非常に高いと言えます。
マーケティングをしていない
最も危険なのが、マーケティング活動を怠っていることです。
「良い治療をしていれば患者は来る」という考えは間違いで、積極的な集患活動なしには患者は増えません。 ホームページもない、SNSもやらない、チラシも配らないでは、誰にも知られません。
また、ホームページを作っただけで満足し、更新やSEO対策をしていない医院も多いです。 「地域名+歯科」で検索しても表示されないホームページでは、意味がありません。
Googleマイビジネスに登録していない、口コミを集めていないというのも問題です。 近年は、地図検索で歯科医院を探す人が多いため、Googleマイビジネスへの登録は必須です。
既存患者からの紹介を促す活動もしていない医院は、新規患者獲得に苦労します。 紹介特典やポイント制度など、紹介を促す仕組みがないと、自然発生的な紹介は期待できません。
自費診療の比率が極端に低い
保険診療のみに依存し、自費診療がほとんどない医院は、収益性が低く経営が厳しくなります。
自費診療は、インプラント、セラミック、ホワイトニング、矯正などが該当します。 これらは単価が高く、1件で数十万円から数百万円の売上になります。
自費診療の比率が10%以上ある医院は、経営が安定しやすいです。 一方、自費診療がほとんどない医院は、薄利多売の経営となり、利益率が低くなります。
自費診療を提案するスキルがない、設備が整っていない、患者の信頼を得られていないといった理由で、自費診療ができない医院は、収益性が低くなります。
また、保険診療と自費診療の違いを患者に説明していないことも問題です。 「保険でできます」とだけ言って、自費診療の選択肢を提示しなければ、患者は選べません。
固定費が高すぎる
家賃や人件費などの固定費が高すぎると、売上が少ないときに経営が苦しくなります。
駅前の好立地に開業し、家賃が月100万円以上かかっている医院もあります。 集客力があれば良いですが、患者数が少ないと、家賃が経営を圧迫します。
また、必要以上にスタッフを雇用している医院も問題です。 歯科衛生士、歯科助手、受付など、複数名のスタッフを雇うと、人件費が膨らみます。 患者数に見合ったスタッフ数にしないと、利益が出ません。
高額な医療機器のリース料も固定費です。 必要性を十分に検討せずに最新機器を導入すると、毎月のリース料が負担になります。
固定費が売上の70%を超えると、利益がほとんど残りません。 固定費を適切にコントロールすることが、経営の基本です。
経営数値を把握していない
売上や経費、患者数などの経営数値を把握していない医院は、問題に気づくのが遅れます。
「なんとなく患者が減っている気がする」「お金が足りない気がする」という感覚だけでは、適切な対策が打てません。 数字で現状を把握し、分析することが必要です。
月次の売上、患者数、新規患者数、リピート率、自費診療比率、人件費率などを記録していない医院は、経営状態が把握できていません。 記録がなければ、改善したのか悪化したのかすら分かりません。
損益分岐点を理解していないことも問題です。 「月にどれだけの売上があれば黒字になるか」を知らなければ、目標が立てられません。
弊社では、10年以上ビジネスを運営していますが、数値管理の重要性を痛感しています。 数値を見ることで、感覚ではなく事実に基づいた経営判断ができます。
経営難に陥りやすい医院の特徴は、マーケティングをしていない、自費診療が極端に少ない、固定費が高すぎる、経営数値を把握していないという点です。
それでは、経営難を脱却し、経営を立て直すためにはどうすれば良いのでしょうか。
歯科医院の経営を立て直す5つの方法
経営難から脱却するには、患者数の増加、自費診療の強化、固定費の削減、リコール率の向上、経営支援の活用という5つの方法が有効です。
これらを実践することで、経営を立て直し、安定した収益を確保できます。
患者数を増やす集患活動の強化
経営を立て直す第一歩は、患者数を増やすことです。
まず、ホームページを充実させます。 診療内容、設備、院長やスタッフの紹介、アクセスなどの基本情報に加えて、診療方針や特徴を分かりやすく伝えます。 患者の声や症例写真(同意を得て)を掲載することで、信頼感を高められます。
SEO対策も重要です。 「地域名+歯科」で検索したときに上位表示されるよう、コンテンツを充実させます。 ブログで歯の健康に関する情報を発信することで、検索エンジンからの流入を増やせます。
Googleマイビジネスへの登録も必須です。 地図検索で表示されるため、近隣の患者を獲得しやすくなります。 口コミを集めることで、検索順位も上がり、新規患者の獲得につながります。
チラシ配布も効果的です。 近隣の住宅にポスティングすることで、地域住民に認知してもらえます。 初診割引などの特典をつけることで、来院を促せます。
既存患者からの紹介も重要な集患方法です。 「お知り合いで歯のことでお困りの方がいらっしゃれば、ぜひご紹介ください」と声をかけます。 紹介特典を用意することで、紹介を促進できます。
自費診療の比率を高める
収益性を改善する最も効果的な方法が、自費診療の比率を高めることです。
インプラント、セラミック、ホワイトニング、矯正など、自費診療のメニューを充実させます。 これらは単価が高く、1件で数十万円の売上になるため、少ない患者数でも収益を確保できます。
自費診療を増やすには、患者への提案力が重要です。 保険診療の範囲でできる治療と、自費診療で可能になる治療の違いを分かりやすく説明します。 「こちらの方が見た目がきれいです」「長持ちします」といったメリットを伝えることで、自費診療を選んでもらえます。
また、カウンセリングルームを設けて、じっくり相談できる環境を作ることも効果的です。 診療台の上で説明するだけでなく、落ち着いた空間で治療計画を提案することで、高額な自費診療も受け入れてもらいやすくなります。
自費診療の技術を磨くことも大切です。 セミナーに参加したり、専門医の資格を取得したりして、自信を持って提供できる体制を整えます。
自費診療の比率を10%から20%に高めるだけで、収益性は大きく改善します。
固定費を削減する
経営を立て直すには、固定費の削減も重要です。
まず、家賃の見直しを検討します。 現在の立地で十分な患者数を確保できていないなら、家賃の安い場所への移転も選択肢です。 ただし、移転にはコストがかかるため、慎重に判断する必要があります。
人件費の見直しも必要です。 スタッフが過剰に多い場合は、適正人数に調整します。 ただし、安易な解雇はトラブルの原因になるため、自然退職を待つか、労働時間を調整するなど、慎重に対応します。
材料費の削減も効果的です。 仕入れ先の見直し、在庫管理の徹底、無駄な消耗品の削減など、小さな改善の積み重ねが大きな効果を生みます。
広告費も、効果測定をしながら最適化します。 費用対効果の低い広告は停止し、効果の高い広告に集中します。
リース契約の見直しも検討します。 使用頻度の低い機器は返却し、リース料を削減できないか交渉します。
固定費を10%削減できれば、それは直接利益の増加につながります。
リコール率を向上させる
安定した患者数を維持するには、リコール率(再来院率)を高めることが重要です。
治療が終わった患者に、次回の検診日を提案し、予約を取ってもらいます。 「3ヶ月後にまた診せてください」と具体的に伝えることで、予約率が上がります。
また、予約日が近づいたら、ハガキやメール、LINEでリマインドを送ります。 「次回の検診日が近づいています」という連絡を受けることで、来院を忘れずに済みます。
定期検診のメリットを伝えることも重要です。 「早期発見で治療費も時間も少なく済みます」「歯を長持ちさせることができます」といった説明をすることで、納得してもらえます。
リコール率が80%以上あれば、経営は非常に安定します。 逆に、リコール率が50%以下だと、常に新規患者を獲得し続けなければならず、経営が不安定になります。
予防歯科に力を入れることも、リコール率向上につながります。 虫歯や歯周病の予防の重要性を伝え、定期的なクリーニングやメンテナンスを提案します。
経営コンサルタントや専門家の支援を受ける
自力での経営改善が難しい場合は、専門家の支援を受けることも選択肢です。
歯科医院専門の経営コンサルタントに依頼すれば、客観的な視点から問題点を指摘し、改善策を提案してもらえます。 集患戦略、自費診療の強化、スタッフ教育、経営数値の分析など、トータルでサポートしてもらえます。
費用はかかりますが、経営難から脱却できれば、十分に元が取れます。 自己流で試行錯誤するよりも、専門家の知見を活用する方が、早く結果が出ます。
税理士にも、税務だけでなく経営アドバイスを依頼できます。 経営に強い税理士であれば、財務分析や資金繰りのアドバイスもしてくれます。
金融機関に相談することも重要です。 返済が厳しい場合は、リスケジュール(返済条件の変更)を申し出ることができます。 返済期間を延ばす、一時的に返済額を減らすなど、柔軟に対応してもらえることがあります。
一人で抱え込まず、専門家の力を借りることが、経営を立て直す近道です。
歯科医院の経営を立て直すには、患者数の増加、自費診療の強化、固定費の削減、リコール率の向上、経営支援の活用が重要です。
最後に、経営難を未然に防ぐための予防策について触れておきましょう。
歯科医院の経営難を未然に防ぐ予防策
経営難に陥ってから対策を講じるよりも、事前に予防することが重要です。
まず、定期的な経営分析を行うことです。 毎月の売上、患者数、経費などを記録し、前年同月と比較します。 患者数が減少傾向にあれば、早めに集患対策を強化します。
予算を立て、実績と比較することも大切です。 「今月の目標売上は300万円」と設定し、実績が280万円なら、なぜ20万円不足したのかを分析します。 原因を特定し、改善策を講じることで、翌月は目標を達成できます。
キャッシュフロー管理も重要です。 売上があっても、入金のタイミングと支払いのタイミングがずれることで、資金不足に陥ることがあります。 常に3ヶ月先までの資金繰り表を作成し、資金ショートを防ぎます。
スタッフとのコミュニケーションも大切です。 経営状況を共有し、目標を共有することで、スタッフも当事者意識を持って働いてくれます。 「今月の目標患者数は600人です。みんなで頑張りましょう」と伝えることで、チーム一丸となって取り組めます。
競合の動向にも注意を払います。 近隣に新しい歯科医院がオープンしたら、どんな特徴があるか調査します。 脅威となる前に、対策を打つことが重要です。
継続的な学習も忘れてはいけません。 新しい治療技術、経営手法、マーケティング戦略など、常に学び続けることで、時代に取り残されません。 セミナーや勉強会に参加し、他の歯科医院の成功事例を学びます。
経営難は、ある日突然やってくるわけではありません。 小さな問題が積み重なり、気づいたときには深刻な状態になっているのです。 早めに問題を察知し、対策を講じることで、経営難を未然に防げます。
歯科医院の経営難は、患者数の減少、保険診療依存、過剰な借入負担、人件費の高騰、後継者不足という5つの主な原因によって引き起こされます。
経営を立て直すには、患者数の増加、自費診療の強化、固定費の削減、リコール率の向上、経営支援の活用が重要となります。 早めに問題を察知し、適切な対策を講じることで、経営難から脱却し、安定した経営を実現できるでしょう。

